先日とあるインタビュー記事(働く人のための情報を発信するメディア「ハタラクブログ」)の取材を受けました。出来上がったタイトルが「ロックンローラーだったカフェオーナーが好きなことをするために捨てたもの」というものでした(詳しくはこちら参照)→
表題ともなっている質問「好きなことをするために捨てたもの」を受けた時に真っ先に思い立ったのが「自家焙煎をしない」ということでした。私にとって焙煎という作業は楽曲づくりにも似て、どう考えても好きでのめり込むことが容易に想像がつき、それをやることでお店全体のことに目が行き届かなくなる心配がある、というのが理由です。麻雀なんかにも言えることなのですが、「きっと自分はハマる」のがわかっているが故に回避しているものが私にとっての焙煎でした。
それからもう一つ、このインタビューを受けた時にその場で自然に思い立って言ったことで自分でも新鮮だったことなのですが、自分にとって「好きなこと」の筆頭である音楽でさえも店舗内では「血も涙もない采配(?)」を振るっているのだなぁと思いました。
当店でかけるBGMはチェロオンリーであり、それは単に私にとってコーヒーに最も合う音色がチェロであるという独断からなのですが、リード楽器がチェロであればポップスや歌謡曲のようなものだって流します。しかし、例えばコテコテのクラシックの演奏、とりわけ長い組曲などに多いのですが、音の強弱の差が激し過ぎる楽曲は却下します。とても静かな、または数秒間は完全に無音になるような箇所があるとその時に例えばヒソヒソ話をしていたお客さんの声が突然浮彫りになりお客さんはビックリしてしまいます。
また突然音が大きくなるとそれはそれでやはりビックリします。
音楽が中心の人生を歩み、楽曲作りを何よりも生きがいとしている身でありながら、店内で流すBGMに関しては作者や演者の技術や芸術的意図も何も汲み取りません(笑)。元々チェロに関しては疎いのですが、世界的に有名なチェリストでダイナミクスレンジの広い(←本来はドラマチックな楽曲とされるかもしれませんが)楽曲よりも、無名であってもある一定の周波と音量をキープし、マスタリングでコンプレッサー(大きい音を潰して小さい音を持ち上げる、畢竟レンジは狭くなる)をかけ、全体的にRECレベルを上げてあるチェリストの作品のほうを流すようにしています。また私自身ロック畑の人間でありながら、流しているチェロのBGMの中にたまにドラムやギターといったバンド楽器が入っているテイクがあるとガッカリします(笑)。しかもギターソロがあってチョーキングなんか入るともう「むせび泣いてんじゃねぇ~!」と憤ります(笑)。店内全体の調和を考える際には「音」の他にも「色、香り、空気、光度etc」様々な要素が絡み合ってお店というものは一つの作品となります。そういったお店という作品作りにのみ私は精を出したく、そのただ一つに過ぎない「音」が必要以上に出しゃばるのは許さないという血も涙もない店主なのです(笑)。
珈琲文明総合プロデューサー(←物は言いよう・笑) 赤澤 智